術後リハビリの目的は、「退院後に安心して自宅で生活できるようにするため」です。
そのためには、階段の昇り降りや歩行などの日常生活動作ができるようになること、膝関節の筋力向上などが必要になります。さらに、人工股関節全置換術の場合は脱臼のリスクが少なからずあるため、禁忌の姿勢を理解して脱臼しないための動作を身につける必要があります。
また、リハビリなど運動をすることは術後の合併症予防のためにも大切です。寝たりで座っている時間が長くなると脚の血の巡りが悪くなり、血管内に血栓(血の塊)が出来ることで「深部静脈血栓症(肺血栓塞栓症)」のリスクが高くなります。命に関わることもあるので、血栓症予防のためにもしっかりと運動することが大切です。
術後のリハビリは翌日から行います。「翌日から!?」と驚く方もいると思いますが、昨今は早期離床(早くからベッドより起きること)が推奨されており、入院中のリハビリの進行が円滑に行えます。
入院中のリハビリは入院日から2週間(手術日は除く)の間、“ 毎日 ”行います。
年齢が若く早期退院して仕事復帰を目指している方は、リハビリの進捗によりますが、術後2週間より早く退院をする場合があります。また、反対に高齢の方やリハビリの進行に時間がかかる(1.5-2ヵ月)方は、当院の回復期リハビリテーション病棟に移り、リハビリを継続する場合もあります。
退院後は外来リハビリに移行し、個人差はありますが、週1〜3回程度の頻度で手術より3~5ヵ月程度実施します。
■ 術後1~2日目
①車いすに乗ること ②トイレに行くこと ③リハビリ室で歩くこと が基本となります。
①車いすに乗ること
術後は硬膜外麻酔の影響などにより脚の力を十分に発揮できないので、車いすを利用します。ベッドから車いすに移るには「立ち上がる」こと、「足踏み」ができること、「ゆっくり座る」ことが必要です。この動作が術後のリハビリの第1歩になります。
②トイレに行くこと
手術当日は麻酔や処置の影響によりトイレへ行くことが出来ないため、膀胱留置カテーテルを入れています。しかし、膀胱留置カテーテルは長期間使用すると頻尿などのトラブルの原因になります。当院では、手術翌日からトイレに行くことが出来るか、トイレで排泄が可能かを検討します。。
③リハビリ室で歩くこと
①、②が出来るようになったら、車いすでリハビリ室に行き、平行棒を使用した起立・歩行訓練を行います。立ち上がりや足踏みが出来るようであれば、歩行訓練を行います。
■ 術後3日~2週
術後3日目頃はサークル型歩行器を使用した歩行訓練を行います。その後、身体機能に合わせて杖や独歩(何も使用しない歩行)歩行に移行していきます。
1週間ごろから屋外歩行や階段の昇り降りなど、退院に向けて必要な動作のリハビリを行います。また、退院後に自宅で実施する必要のある自主トレーニングの指導も並行して行います。
■ “生活”を考えたリハビリ
当院では、患者さんの退院後の生活状況・生活様式に合わせたリハビリを行っています。
例えば、布団や床への座る方法の指導、浴槽のまたぎ、階段の上り下り、買い物等で必要な屋外歩行など。必要に応じてご家族に説明することもあります。
入院中は家事等の動作を行うことはないため、自宅より楽な生活が出来てしまいます。自宅復帰に必要な能力を獲得した患者さんは“自宅の生活”という次のリハビリを行う必要があります。自宅の生活でのお困りごとはリハビリテーション外来のスタッフにご相談頂ければ、適切なアドバイスや自主トレーニングの指導でサポートします。
■ 退院が可能な目安
退院が可能な目安としては、日常生活に必要な動作が出来ることです。
例えば、「バス停(500m平地)まで歩けて、自宅前にある10段の階段の上り下りをし、玄関の段差20cmを越えられる」ことが退院時に必要な能力の患者さんがいた場合、屋外歩行訓練で杖を使用してこれらの動作が出来るようになれ退院可能です。もちろん患者さんによって必要な動作能力や杖の有無などが変わってきます。
理学療法士 鈴木